書面添付制度・意見聴取

意見聴取の直後にその場で調査へ移行すると告げられたとき
手続の建て付けと、加算税の分かれ目

相続税の申告書に税理士法33条の2の書面を添付した事案を前提に、
「1週間」という数字がどこに置かれているのか、
即時移行をどう評価すべきか、
そして実務上いちばん実益のある確認事項を整理しています。

結論の要旨

意見聴取の直後にその場で調査へ移行する運用は、
国税庁の事務運営指針が想定している手順とは緊張関係にありますが、
処分の効力を左右する違法とまではいえないと考えられます。

他方で「意見聴取のあとに間がある」という理解は、
期間の長さと根拠の位置づけこそ異なるものの、
構造としては誤っていません。
指針は意見聴取と調査通知を別の日に行うことを予定しています。

最も実益のある論点

その場で告げられた内容が、
国税通則法65条6項の調査通知に当たるかどうかを確認することです。
当たらないのであれば、いま修正申告書を提出しても過少申告加算税は課されない可能性があります。
当たるのであれば、その余地はすでに閉じています。

3つの問いへの回答

問1 意見聴取の直後に、その場で調査へ移行することは許されるのか

処分の効力を左右する違法とはいえません。
税理士法35条1項が課している義務は「意見を述べる機会を与えること」にとどまり、
聴取の後に一定期間を置くことも、質疑の内容や程度も、条文上は定められていないためです。

ただし、事務運営指針が定める手順との整合という点では、
説明のつきにくい面が残ります。
詳細はタブ03で整理しています。

問2 意見聴取の後に1週間の判断期間があり、移行しないなら書面が来るのか

「1週間」という数字は実在しますが、置かれている場所が異なります。
意見聴取の、すなわち意見聴取を行う旨の連絡から調査通知予定日までの前倒し幅です。

もっとも、意見聴取が終われば直ちに調査通知、という建て付けでもありません。
指針は「意見聴取は調査通知予定日の前日までに了する」としており、
両者が別の日であることを予定しています。

「移行しないなら書面」については、
調査に移行しない場合でも書面が送られない類型があり、
送付までの日数の定めもありません。
「1週間待って書面が来なければ移行」という関係にはなっていません。

問3 この運用は書面添付制度の趣旨に反しないのか

制度趣旨は「調査までの猶予を与えること」ではないため、
趣旨に反すると断ずることは難しいと考えられます。
国税庁は、添付書面について「調査の省略を前提としているものではありません」と明示しています。

ただし、指針が意見聴取について
「個別・具体的に質疑を行うなどして疑問点の解明等を行い、
その結果を踏まえ調査を行うかどうかを的確に判定する」と述べていることからすれば、
形式的な聴取の直後に移行を告げる運用は、
指針が想定した姿とはいいにくい面があります。

もっとも、この点を申し入れても加算税の結論は変わりません。
申入れは将来の運用改善を求めるものと位置づけるのが実際的です。

「1週間」はどこに置かれているか

相続税の書面添付事案に適用される国税庁の内部文書は、
「資産税事務における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続等について(事務運営指針)」
(平成21年4月1日課資5-13ほか、最終改正令和6年3月26日)です。

同指針 第2章第2節2「意見聴取の時期、方法」
調査担当者は、調査通知予定日の1週間から2週間前までに税務代理権限証書に記載された税理士等に対し意見聴取を行う旨を口頭(電話)で連絡し、意見聴取の日時、方法を取り決める。この場合、意見聴取は調査通知予定日の前日までに了することとし、原則として税理士等に来署依頼する方法により行う。また、添付書面の「事務処理欄」に意見聴取を行う旨を通知した日及び調査通知予定日を記入する。
注2 意見聴取は、原則として、統括官等と調査担当者が行う。

ここでいう1週間から2週間は、
意見聴取を行う旨の連絡から調査通知予定日までの前倒し幅であり、
意見聴取が終わった後に置かれる判断期間の長さを定めたものではありません。

国税庁の税理士制度のQ&A問4-7も、
「意見聴取を実施する場合には、税務署等が納税者に対して調査通知を行う日の1〜2週間前までに、
意見聴取の日時、方法を取り決めるための連絡を行うこととしています」としており、
同じ構造です。

時間軸で見た位置関係

意見聴取の連絡
調査通知予定日の1週間から2週間前まで
意見聴取の実施
調査通知予定日の前日までに了する
移行判断の決裁
応接簿に記載し統括官等の決裁
調査通知
ここから加算税の扱いが変わる
よくある取り違え

「1週間」を意見聴取の後ろに置いて理解すると、
実際より長い猶予があるように見えてしまいます。
数字は前にあり、後ろにあるのは「前日までに了する」という間隔だけです。

「移行しないなら書面が来る」の位置づけ

同指針第2章第2節5(1)は、調査の必要がないと認められた場合に、
「現時点では調査に移行しない」旨の連絡を、
原則として「意見聴取結果についてのお知らせ」により行うとしています。

ただし、次の場合には口頭(電話)による連絡で足りるとされています。

意見聴取を行ったことに基因して自主的に修正申告書が提出された場合、
または以後の申告や帳簿書類の備付け等に関して指導した事項がある場合

添付書面の主要な記載欄に記載がない場合

記載はあるが明らかに不備がある、内容が具体性に欠けるなど、これに準ずる場合

したがって、調査に移行しない場合であっても、書面が送られないことがあります。
また、送付までの日数の定めはありません。

なお、「現時点では調査に移行しない」旨の連絡を受けた後であっても、
新たな疑義が生じたときに調査することは妨げられません。
その際に調査通知を行う場合には、改めて意見聴取が行われることとされています。

指針が定める手続の3段階

事務運営指針は、意見聴取から調査通知までを次の3段階に分けています。

1
意見聴取の実施(第2章第2節2、3)

調査通知予定日の前日までに了することとされています。
原則として税理士等に来署を依頼する方法により行います。

2
移行判断の確定(同第2節4)

調査担当者は意見聴取の後、相手方、応接日時、聴取した内容、
調査への移行の有無、「意見聴取結果についてのお知らせ」の送付要否などを応接簿に記載し、
統括官等の決裁を了することとされています。

応接簿の摘要欄には、税理士等から申入事項があった場合にその旨を記載することとされています。

3
結果の連絡と調査通知(同第2節5(2))

調査の必要があると認められた場合には、
納税者に対する調査通知を行う前に、
税理士等に対し意見聴取結果と「調査に移行する」旨の連絡を口頭(電話)により行うこととされています。

同指針 第2章第2節5(2) なお書き
なお、この場合において、税理士等に対する意見聴取結果の連絡と併せて税理士等に対する調査通知を行うこととしても差し支えない。

即時移行をどう評価するか

このなお書きが許容しているのは、
第3段階の中で結果連絡と調査通知を同時に行うことです。
第1段階から第3段階までを意見聴取の場で一度に行うことまでを想定した規定ではありません。

指針の文言と整合しにくい点

第一に、意見聴取を調査通知予定日の前日までに了するという記述と、
意見聴取と同日にその場で移行を告げることは、正面から整合しません。

第二に、調査への移行の有無は応接簿に記載して統括官等の決裁を経る事項とされており、
決裁前にその場で告げることは、想定された順序と逆になります。

第三に、第2節5(2)前段は連絡の方法を口頭(電話)としており、
対面での即時告知は文言上の想定外です。

緊張を緩和する要素

同指針第2章第2節2の注2は
「意見聴取は、原則として、統括官等と調査担当者が行う」としています。

決裁権者である統括官等が意見聴取の場に同席する建て付けであるため、
その場で移行を告げても、
判断主体としては決裁権者の判断を経ていると評価する余地があります。

決裁印が事後になるだけ、という説明も成り立ちます。

評価

「指針上も当然に想定されている」と積極的に正当化できるものではなく、
かといって「指針違反であるから処分を争える」という筋道にもなりません。
法的効力の問題と、運用の当否の問題を分けて考えるのが実際的です。

根拠の階層と法的拘束力

階層該当するもの日数の定め
法律税理士法33条の2、35条
国税通則法74条の9、65条6項
なし
政令国税通則法施行令30条の4、27条なし
法令解釈通達税理士法基本通達
(33条の2関係・35条関係の項目は置かれていない)
なし
事務運営指針資産税事務における書面添付制度の運用に当たっての
基本的な考え方及び事務手続等について
ここにある
申し合わせ・慣行該当する文書は確認されないなし

「1週間から2週間」があるのは事務運営指針のみです。
事務運営指針は国税庁長官から各国税局長に宛てた内部文書であり、
行政組織内部の準則です。
納税者や税理士に対する法的拘束力はありません。

税理士会との申し合わせや業界慣行ではなく、
国税庁の内部文書に根拠がある、というのが正確な整理になります。

法律が定めていること

税理士法35条1項
税務官公署の当該職員は、第三十三条の二第一項又は第二項に規定する書面(以下この項及び次項において「添付書面」という。)が添付されている申告書を提出した者について、当該申告書に係る租税に関しあらかじめその者に日時場所を通知してその帳簿書類を調査する場合において、当該租税に関し第三十条の規定による書面を提出している税理士があるときは、当該通知をする前に、当該税理士に対し、当該添付書面に記載された事項に関し意見を述べる機会を与えなければならない。
義務の内容は「意見を述べる機会を与えること」です。
聴取の後に一定期間を置くことも、質疑の内容や程度も、条文上は定められていません。

また、法律が基準時としているのは日時場所の通知、すなわち事前通知の前であって、
調査通知の前ではありません。
調査通知の前に前倒ししているのは、事務運営指針とQ&Aの取扱いです。

税理士法35条4項
前三項の規定による措置の有無は、これらの規定に規定する調査に係る処分、更正又は審査請求についての裁決の効力に影響を及ぼすものと解してはならない。
条文が直接規定しているのは措置の有無です。
もっとも、機会を全く与えなかった場合ですら処分の効力に影響しないとされている以上、
聴取の時間的余裕や内容が不十分であったことも、
それ自体では更正処分や加算税の賦課決定処分の取消事由にはならないと考えられます。

意見聴取は調査ではない

意見聴取における質疑等は、調査を行うかどうかを判断する前に行うものであり、
特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的で行う行為に至らないものである
(事務運営指針 第2章第2節3)

この性質が、次のタブで扱う加算税の取扱いに直結します。

制度趣旨

書面添付制度は、税務代理する税理士等に限らず、広く税理士等が作成した申告書について、
それが税務の専門家の立場からどのように調製されたかを明らかにすることにより
正確な申告書の作成及び提出に資するとともに、
税務当局が税務の専門家である税理士等の立場をより尊重し、
税務執行の一層の円滑化・簡素化に資するとの趣旨によるものである
(事務運営指針 第1章1)

国税庁の税理士制度のQ&A問4-3は、
「当該書面については、調査の省略を前提としているものではありません」としています。

加算税の分岐点

ここが実務上いちばん実益のある部分です。
その場の告知が国税通則法65条6項の調査通知に当たるかどうかで、
以後の修正申告に加算税が課されるかどうかが分かれます。

調査通知とは何か

調査通知とは、次の3項目の通知をいいます。

通知事項根拠
実地の調査において質問検査等を行わせる旨国税通則法施行令27条4項
調査の対象となる税目国税通則法65条6項が同法74条の9第1項4号を引用
調査の対象となる期間同項5号を引用

税務代理権限証書に事前通知に関する同意の記載がある場合、
税理士に対する通知だけで調査通知が成立します(国税通則法施行令27条5項)。
税理士が意見聴取を受けている事案では、この点の確認は欠かせません。

意見聴取における質疑は「更正の予知」に当たらない

意見聴取における質疑等のみに基因して修正申告書が提出されたとしても、
当該修正申告書の提出は更正があるべきことを予知してされたものには当たらない
(事務運営指針 第2章第2節3)

加算税が賦課されない場合は、意見聴取から調査通知までの間に修正申告書を提出したときに限られます
(国税庁 税理士制度のQ&A 問4-6 解説)

2つの場合分け

① 3項目が告げられていた場合

調査通知が成立しています。

以後に修正申告書を提出しても、
過少申告加算税が課されます。
国税通則法65条1項により5パーセント、
期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は
同条2項により10パーセントです。

窓は閉じている

② 告げられていなかった場合

調査通知は成立していません。

更正があるべきことを予知する前に修正申告書を提出すれば、
過少申告加算税は課されません
(国税通則法65条6項)。

窓が開いている可能性

誤解しやすい点

「机上調査だと言われた」ことをもって、
調査通知が成立していないと考えることはできません。

いったん調査通知が成立した場合、
その後に実際の臨場が行われず来署や電話でやり取りが進んだとしても、
調査通知の効果は失われないためです。

「相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」
(平成12年7月3日課資2-264ほか、最終改正令和5年6月23日)第1の3(2)は、
調査通知を行った場合において調査通知後に修正申告書が提出されたときは、
当該調査通知に係る調査について実地の調査が行われたかどうかにかかわらず
国税通則法65条6項の規定の適用はない、としています。

判断されるべきは、その場で何が告げられたかです。

更正の予知の成立時期

加算税の事務運営指針 第1の2
通則法第65条第1項又は第6項の規定を適用する場合において、その納税者に対する臨場調査、その納税者の取引先に対する反面調査又はその納税者の申告書の内容を検討した上での非違事項の指摘等により、当該納税者が調査があったことを了知したと認められた後に修正申告書が提出された場合の当該修正申告書の提出は、原則として、これらの規定に規定する「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当する。
(注)臨場のための日時の連絡を行った段階で修正申告書が提出された場合には、
原則として「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当しない。

ここでいう「非違事項の指摘」は調査における指摘を指します。
意見聴取における質疑は、前掲のとおりこれに当たりません。

調査結果の説明後にさらに修正申告する場合

加算税の事務運営指針第1の3(3)イは、
調査通知に係る調査について国税通則法74条の11第2項の調査結果の説明に基づき修正申告書が提出された後に、
さらに修正申告書が提出された場合には、
調査通知がある前に行われたものとして取り扱うとしています。

確認しておきたいこと

1
その場の告知の内容

実地の調査において質問検査等を行わせる旨、対象税目、対象期間の3項目が告げられたかどうか。
告げられた日時と、担当者の官職氏名。

事前通知も調査通知も口頭で行われ、書面が交付されないため、
受け手側で記録を残しておく必要があります。

2
税務代理権限証書の記載

事前通知に関する同意欄に記載があるかどうか。
記載がある場合、税理士に対する通知だけで調査通知が成立します。

3
意見聴取を受けたのは誰か

調査通知前の意見聴取は税理士に対して行われるものであり、
納税者を同席させて行うものではないとされています
(国税庁 税理士制度のQ&A 問4-10)。

納税者本人が呼ばれて質問を受けたのであれば、
それは意見聴取ではなく質問検査等に当たる可能性があります。

4
記録がどこに残るか

意見聴取については応接簿が作成され、統括官等の決裁を経て保管されます。
応接簿には調査への移行の有無が記載されます。

また、添付書面の事務処理欄には、
意見聴取を行う旨を通知した日と調査通知予定日が記入されることとされています。

意見聴取の機会は今回で終わりではない

税理士法35条2項(要旨)
添付書面が添付されている申告書について更正をすべき場合において、当該添付書面に記載されたところにより当該更正の基因となる事実につき税理士が計算し、整理し、若しくは相談に応じ、又は審査していると認められるときは、当該税理士に対し、当該事実に関し意見を述べる機会を与えなければならない。ただし、申告書及びこれに添付された書類の調査により課税標準等の計算について法令の規定に従つていないことが明らかであること又はその計算に誤りがあることにより更正を行う場合には、この限りでない。
事務運営指針第2章第2節6は、この機会を
国税通則法74条の11第2項に規定する調査結果の内容の説明を行う前までに与えなければならないとしています。

実地の調査以外の調査の特徴

手続実地の調査実地の調査以外
事前通知必要法令上は不要
運用上、税目・課税期間・目的等を説明
是認の場合の書面通知必要不要
終了した旨を口頭で連絡
調査結果の内容の説明必要必要
勧奨時の教示書面の交付義務義務
再調査の制限あり及ばない

臨場されない利点がある一方、
是認の書面が出ず、再調査の制限も働かない点は認識しておく必要があります。

なお、修正申告等を勧奨される場合には、
不服申立てはできないが更正の請求はできる旨の説明と、
その旨を記載した書面の交付が義務づけられています(国税通則法74条の11第3項)。

運用に疑義がある場合の申入れ先

意見聴取の場での申入れ。
応接簿の摘要欄に、税理士等からの申入事項を記載する運用があります。

納税者支援調整官。
各国税局および主要税務署に配置されています。

国税庁の税務行政に対する意見・要望の窓口。

税理士会を通じた申入れ。

ただし、これらの申入れによって加算税の結論が変わるわけではありません。
税理士法35条4項があるためです。
将来の運用改善を求めるものと位置づけるのが実際的です。

行政指導と調査の境界

申告漏れが見つかったとき、
それが行政指導で処理されるのか調査になるのかは、
加算税の有無に直結します。

境界は、当局が自分の持っている情報と申告書を突き合わせるだけで足りるか、
それとも外部から証拠資料を集めて事実を認定しなければならないか、
という点にあります。

「調査」の定義

国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達 1-1
特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で当該職員が行う一連の行為(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)をいう。

調査に該当しない行為

同通達 1-2(1)ロ
当該職員が保有している情報又は提出された納税申告書の検算その他の形式的な審査の結果に照らして、提出された納税申告書に計算誤り、転記誤り又は記載漏れ等があるのではないかと思料される場合において、納税義務者に対して自発的な見直しを要請した上で、必要に応じて修正申告書又は更正の請求書の自発的な提出を要請する行為。
同通達 1-2(2)
提出された納税申告書の記載事項の審査の結果に照らして、当該記載事項につき税法の適用誤りがあるのではないかと思料される場合において、納税義務者に対して、適用誤りの有無を確認するために必要な基礎的情報の自発的な提供を要請した上で、必要に応じて修正申告書又は更正の請求書の自発的な提出を要請する行為。
「基礎的情報」の語は、同通達1-2(3)で「基礎的情報(事業活動の有無等)」、
1-2(5)で「基礎的情報(源泉徴収の対象となる所得の支払の有無)」と例示されています。
いずれも存否レベルの単純な事実であり、
事実の評価や認定を要する情報までは含まれないと読むのが自然です。
見落とされやすい点

通達1-2の柱書は「調査には該当しないことに留意する」と述べるにとどまります。
要件を満たせば行政指導によらなければならない、という規範ではありません。

行政指導になじむ類型であることと、
行政指導によるべきであることは別です。
同じ端緒から調査を選択することは妨げられていません。

態様では決まらない

文書や電話は行政指導、臨場は調査、という区分は成り立ちません。

調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針) 第2章1
納税義務者等に対し調査又は行政指導に当たる行為を行う際は、対面、電話、書面等の態様を問わず、いずれの事務として行うかを明示した上で、それぞれの行為を法令等に基づき適正に行う。

国税不服審判所令和5年12月7日裁決(裁決事例集No.133)は、所得税の事案について、
職員が法定調書に基づく資料を確認し、申告書と比較検討したうえで行った電話連絡を含む一連の行為を、
課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程であるとして調査に当たると判断しています。
同裁決は、調査には「いわゆる机上調査のような課税庁内部における調査をも含む」とも述べています。

行政指導でとどまる類型と、調査に移行する類型

行政指導でとどまりやすい

保有情報と申告書の突合だけで判断できるもの。

法定添付書類の不添付、計算誤り、転記誤り、
法令の適用誤りなど。

相続税では、相続時精算課税適用財産の加算漏れが
最も適合度の高い例といえます。
金額は贈与税の申告書で確定しており、
誰が負担したか・誰に帰属するかという
事実認定を要しないためです。

調査に移行せざるを得ない

要件事実の認定を要するもの。

誰が保険料を負担したか、名義預金の実質帰属、
贈与の成否など、
資金の出所や当事者の意思を評価して初めて
課税要件が充足するか決まる事項。

金融機関や保険会社への照会が必要になれば、
それは質問検査権の行使であり、
その時点で調査です。

加算税との関係

同通達 1-2 柱書の後段
これらの行為のみに起因して修正申告書若しくは期限後申告書の提出又は源泉徴収等による国税の自主納付があった場合には、当該修正申告書等の提出等は更正若しくは決定又は納税の告知があるべきことを予知してなされたものには当たらないことに留意する。

書面添付事案では、意見聴取についても同様の定めがあります。
意見聴取における質疑等のみに基因して修正申告書が提出されたとしても、
更正があるべきことを予知してされたものには当たりません。

実務上の要点

加算税の有無を分けるのは、
行政指導であったか調査であったかではなく、
修正申告書の提出が更正の予知の前か後か、
および調査通知の前か後かです。

書面の交付を求める権利はない

行政手続法35条3項は、行政指導が口頭でされた場合に相手方から書面の交付を求められたときは、
行政上特別の支障がない限り交付しなければならないと定めています。

しかし国税通則法74条の14第2項は、
国税に関する法律に基づく納税義務の適正な実現を図るために行われる行政指導について、
行政手続法35条3項および36条の適用を除外しています。
書面の交付を求める法的な権利はありません。

他方、行政手続法35条1項の趣旨・内容・責任者を明確に示す義務と、
同法32条の任意性および不利益取扱いの禁止は適用除外されていません。
これは調査か行政指導か、担当者と責任者は誰かを明示させることは可能です。

「簡易な接触」は行政指導と同義ではない

国税庁が公表している「簡易な接触」は、
文書、電話による連絡または来署依頼による面接により
申告漏れ、計算誤り等がある申告を是正するなどの接触をいいます。

令和6事務年度・相続税実地調査簡易な接触
件数9,512件21,969件
申告漏れ課税価格2,942億円1,123億円
追徴税額(合計)824億円138億円
うち加算税109億円6億円

簡易な接触にも加算税が6億円計上されています。
行政指導であれば過少申告加算税は生じませんから、
この括りには行政指導と、実地の調査以外の調査の双方が含まれていることになります。
簡易な接触だから行政指導である、という推論は成り立ちません。

生命保険契約に関する権利と法定調書

この財産は、どの類型かによって
税務署の把握経路がまったく異なります。
行政指導になじむかどうかも、そこで分かれます。

3つの類型

前提として、被相続人が被保険者である場合は保険事故が発生しているため、
死亡保険金(相続税法3条1項1号)の問題となり、
生命保険契約に関する権利は生じません。
以下は被保険者が被相続人以外である場合の整理です。

類型契約者保険料負担者課税関係
第1被相続人被相続人本来の相続財産
(相基通3-36(1))
第2被相続人以外
(名義保険)
被相続人みなし相続財産
(相法3条1項3号)
第3被相続人被相続人以外課税されない
(相基通3-36(2))

評価は解約返戻金相当額によります(財産評価基本通達214)。
死亡保険金の非課税枠(相続税法12条)の適用はありません。

調書が提出されるのはどの場合か

相続税法59条2項
保険会社等でこの法律の施行地に営業所等を有するものは、生命保険契約又は損害保険契約の契約者が死亡したことに伴いこれらの契約の契約者の変更の手続を行つた場合には、当該変更の効力が生じた日の属する年の翌年一月三十一日までに、財務省令で定めるところにより作成した調書を当該調書を作成した営業所等の所在地の所轄税務署長に提出しなければならない。
提出には、契約者が死亡したことと、
それに伴い契約者変更の手続を実際に行ったことの両方が必要です。

調書に何が書かれるか

記載事項は相続税法施行規則30条5項が定めています。
変更後の契約者、変更前の契約者、変更前の契約者が死亡した日、変更の効力が生じた日のほか、
5号で「その変更に係る契約の解約返戻金相当額」、
6号で「前号の契約に係る保険料の総額及び第二号の契約者が払い込んだ保険料の金額」が挙げられています。

国税庁の様式では、
「解約返戻金相当額」「既払込保険料等の総額」「死亡した保険契約者等の払込保険料等」の欄が該当します。

調書の限界

名義保険(第2の類型)は調書に現れません。
契約者が生存しているため契約者変更が生じず、
保険事故も発生していないため支払調書も出ないためです。

この制度は平成27年度税制改正で創設されたもので、
平成30年1月1日以後に契約者変更の効力が生ずる場合から適用されます。

解約返戻金相当額が100万円以下の契約、掛捨型の契約、団体契約などは
提出が免除されます(相続税法施行規則30条6項)。
調書が出ていないことは、権利が存在しないことの証明にはなりません。

提出期限は変更の効力が生じた日の属する年の翌年1月31日です。
相続開始から申告期限までは10か月ですから、
申告審理の段階では調書が届いていない場合が構造的に生じます。

調書の解約返戻金相当額は、契約者の死亡日または契約者変更の効力発生日のいずれかの日で評価されます。
財産評価基本通達214は相続開始の時の解約返戻金の額に前納保険料や剰余金の分配額を加算し、
源泉徴収されるべき所得税相当額を減算するとしていますので、
調書の金額と申告すべき評価額は必ずしも一致しません。

「払い込んだ」と「負担した」は別

ここが要点

調書が記録しているのは、保険会社の帳簿上、
契約者として払い込まれた保険料の額です。
これは払込者であって負担者ではありません。

原資を出したのが別人であれば、被相続人は保険料を負担していないことになり、
相続税法基本通達3-36(2)により課税されません(第3の類型)。
逆に名義保険は、契約者が払い込んだ形になっていても
実質の負担者が被相続人であるという類型です。

調書は端緒を与えるにとどまり、
課税要件そのものを確定させるものではありません。

もっとも、そこから「行政指導にはなじまない」という結論までは導けません。
通達1-2(1)ロが求めているのは
「記載漏れ等があるのではないかと思料される場合」であって、
確定的な認定ではないためです。

調書の解約返戻金相当額と申告書の記載額に差異があれば、
その時点で「思料される場合」に当たり、
自発的な見直しを要請すること自体は行政指導の範囲に収まります。

当局側で類型化されている

国税庁の「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」は全14事例のうち
2事例を生命保険契約に関する権利に充てています。
事例(9)が被相続人を契約者とする類型、事例(10)が名義保険の類型です。

「相続税の申告のためのチェックシート」にも次の項目があります。

生命保険契約に関する権利の計上漏れはありませんか。

契約者が家族名義などで、被相続人が保険料を負担していた生命保険契約はありませんか。

(検討資料)保険証券、支払保険料計算書、所得税及び復興特別所得税の確定申告書(控)等

検討資料として所得税の確定申告書の控えが挙げられているのは、
生命保険料控除の適用状況から保険料の負担者をたどるためと考えられます。

名義保険の確認は質問検査権の行使になる

名義保険では、被相続人の預貯金からの引落しの追跡、
生命保険料控除の適用状況の確認、保険会社への照会などが必要になります。

とくに保険会社への照会は、国税通則法74条の3第1項1号ロが
質問検査等の相手方として
「相続税法第五十九条(調書の提出)に規定する調書を提出した者又はその調書を提出する義務があると認められる者」
を掲げており、質問検査権の行使にほかなりません。
通達1-1のいう証拠資料の収集そのものであり、行政指導の枠を超えます。

調査に選定されやすいのはなぜか

金額が大きくなりやすい財産です。
調書の提出免除基準が解約返戻金相当額100万円以下であることから、
調書が提出されている時点で100万円を超えていることになります。
終身保険や養老保険では数百万円から数千万円になることも珍しくありません。

参考として、令和6事務年度の相続税の実地調査は9,512件、
申告漏れ課税価格2,942億円で、実地調査1件当たりでは3,093万円です。

申告漏れ相続財産の内訳(令和6事務年度・合計2,879億円)金額構成比
現金・預貯金等837億円29.1%
有価証券393億円13.6%
土地353億円12.3%
家屋50億円1.7%
その他1,247億円43.3%

生命保険契約に関する権利はこの「その他」に含まれると考えられますが、
国税庁は内訳を公表していません。

選定されやすさの実質的な理由

金額の大きさそのものよりも、
名義保険の可能性を含んでいることにあると考えられます。

契約が存在するのに申告がないという状態は、
保険料の原資がどこから出ていたかという問いに直結し、
被相続人の預貯金の動きを確認する必要を生じさせます。

突合だけで完結せず、他の金融資産の申告漏れの端緒にもなり得るため、
事実認定を伴う調査に親和的な論点です。